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息を殺し、険しい山道を慣れた足取りで辿る。
それでも細心の注意を払い、蚊が刺すほどの足音で、目標からは、目を離さず、ぎりぎりのとこまでは悟られぬよう近づいて行く。
織田方の将であろう二人は、一本杉の下、木を背にして滝を眺め腰掛けていた。
藤吉郎達からするとその奥に、目的の馬は繋がれている。
気配を押し殺しながら近づく藤吉郎に、否が応にも緊張が募る。
馬と二人の将の距離感からすると、最悪一太刀は浴びる覚悟は必要だったからだ
茂みの合間から、侍の横顔がはっきりと見て取れるくらいのとこまで来たところだった。
藤吉郎がふいに歩みを止めた。
後ろから付いて来ていた、小六と矢吉も一瞬の緊張と共に歩みを止める。
見つかったのかもしれない、そんな予感さえした。
小六は、目標の将を視線で捉えたまま、微動だにしない藤吉郎を、不可解に思ったが、声に出してしまっては、張れるかもしれないと思い、藤吉郎の右肩を軽く叩いた。
それで我に返った藤吉郎は、何でもないと優しげな顔を見せながら首を振り、また歩を進め始めた。
(あれは…涙か?)
藤吉郎が見た将の横顔。
その頬を伝うものがあったのだ
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