「その時」

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そこは 床も壁も全て 冷たいコンクリートで 覆われ、 手を伸ばしても 届かない程高い位置に、 小窓がついているだけの 部屋だった。 かろうじて 日光が当たってる床に 私は座り、 彼を待っていた。 私を失った後、 あなたはどのように 一日を過ごし、 どのように 死ぬのだろう。 私の最後が 目に焼き付いたまま 虚ろな一日を終え、 最後を 迎えるのではないか。 その時、 私は そばにいてあげられない。 あなたはきっと、 たった一人で 最後を 迎えるのだろう。 すべきことは 全てした。 でもここへ来て 私は初めて、 「生きたい」 と思った。 手続きを終え、 彼が 私のいる部屋へと 招かれる。 そして、 虚ろな表情のまま 私を強く抱き締めた。 私は 彼の頬を 両手で包み、 泣く。 彼はただ 黙って私を見据え、 「その時」 をじっと待つ。
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