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『ごしゅじん』は訝しげにアタシを見ていた。
が、ふっ…と表情が弛み、突如として吹き出した。
その姿にキョトンとしたアタシは、『ごしゅじん』を覗き込む。
その時のアタシは、見える筈もない自分の姿が見えている事など、気にも留めなかった。
自身を覗くアタシに気付いたのか、目線を同じ高さにする為にしゃがみ込んだかと思うと『ごしゅじん』はアタシを見てこう言ったのだ。
「間抜けな顔、可笑しい奴だな」
そう言ったかと思うと、真夜中だというのに腹を抱えて笑い転げている。
“間抜けな顔”だと指摘され、アタシは顔が熱くなるのを感じた。
『ごしゅじん』は不審に思わないのだろうか。見ず知らずのモノが自分の家に居る事を。そんな事を訊く勇気すらないアタシは、そのまま俯きその場に座っていた。
その姿を見兼ねて、一頻り笑った『ごしゅじん』は立ち上がるとアタシに手を差し伸べてくれた。
「そんな所じゃ寒いだろ?俺の部屋なんかでいいなら来いよ」
その時、アタシは反射的に『ごしゅじん』の手を掴んでいた。
それを確認する様に強くアタシの手を握り返すと、軽々とアタシを立ち上がらせ、手をひいて自分の部屋へと導き入れてくれた。
それから、薄着のアタシを見兼ねてか自分の上着をかけ、温かい飲み物まで出してくれた。
季節は春。だが、朝夜共に冷え込む。
それ故の配慮だろう。
アタシはまた『ごしゅじん』の優しさに救われていたのだった。
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