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『ごしゅじん』はアタシの手を引いて色々な所へ赴いた。
アタシの知らない場所。
『ごしゅじん』と誰かの思い出の場所。
多分、“カレン”という人との大切な場所なのだろう。
胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
目頭が熱くなる。
そんなアタシをよそに、『ごしゅじん』は嬉しそうに微笑みながら、“ほら、ここでよく遊んだだろう”、“ここで倒れた事、あったよな”、などと語り掛けてくる。
アタシの知らない『ごしゅじん』が、そこには居た。
それからも、沢山歩いて沢山の思い出たちを『ごしゅじん』を通して見た気がした。
その時は、ずっと嬉しそうにアタシに対して“カレンとの思い出”を話していた。
が、とある場所へ行き着いた時、『ごしゅじん』の表情がガラリと変わった。
「今は変わっちまったけど、ここはよく来たんだよな」
そう言って、アタシを振り返る。
少し憂いを帯びた目。哀しげな眼差しが向けられる。
特別な場所なのだろうか、これまで見たことのない『ごしゅじん』の顔がそこにあった。
これまで奥底に眠っていた感情が目を醒まし、あの頃の『ごしゅじん』が目の前に立っている。
アタシの知らない思い出、知らない場所、知らない『ごしゅじん』。
こんな事が頭の中を駆け巡り、これまで蓄積されてきた孤独感が溢れ出し、それが涙となり頬を伝う。
『ごしゅじん』はギョッとし、驚きを隠せないようだった。
だが、またいつもの『ごしゅじん』に戻ったようで、アタシを慰めるように頭を撫でてくれた。
「ごめんなさい…覚えて、なくて…」
アタシは、小さな嘘を吐いた。
心が痛んだが、後悔はしていない。
そんなアタシを抱き寄せ、頭を撫でながら“大丈夫だよ。昔とは大分変わったんだ、分からなくて当然だ…お前、泣き虫だったんだな”と笑いながらも優しさを含め囁いた。
ごめんなさい。
ごめんなさい、“カレン”…
アタシはその時、“カレン”になる事を心に決めた。
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