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「なあ」
『ごしゅじん』が部屋の押入れに眠っていた段ボールを引っ張り出し、漁っていたかと思うと、いきなりアタシに呼び掛けた。
「う、えっ…」
此処へ来て、何日か経つのに慣れないアタシはおどおどしながら返事をした。
「何で俺は“ご主人”って呼ばれるんだ?」
『ごしゅじん』はどこか抜けている。
今更になって、そんな事を訊いてきたのだ。
「えと…、“ごしゅじん”は、“ごしゅじん”だから…だよ」
自分でも訳の分からないまま、俯き『ごしゅじん』の目も見ずに答えた。
すると、『ごしゅじん』は“そうか、そうか”と言って笑った。
そして、いつものようにアタシの頭をわしわしと撫でるのだ。
少し乱暴だが心地が良くて、思わず目を細めた。
心が締め付けられ、頬が熱くなるのを感じた。自然と心拍数も上がる。
その熱も苦しささえ愛しい。
アタシはこんなにも、情緒豊かであっただろうか。
こんなにも、心温まる事があっただろうか。
そんな疑問が次々と浮かぶ。
自分のペースが乱される。
『ごしゅじん』の行動、言動、全てに心が動かされる、感情が揺れる。
アタシの日常は『ごしゅじん』が中心に廻っている事にこの時初めて気付いた。
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