『ごしゅじん』

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――綺麗な夕焼け。 沢山の人たちが談笑をしながら目の前を横切っていく。  そんな中、アタシは庭の片隅にただただ座っていた。 とある人の帰りを待っているのだ。 この庭から離れる事は無いに等しい。 それには理由があるのだが…。    アタシは毎日、この大きな庭を行き来する『ごしゅじん』を見送り、出迎えていた。 それがアタシの日課となっている。    『ごしゅじん』というのは、アタシをこの庭に連れて来てくれた人。 名前は知らないけれど、とても優しい人。 アタシに『ロゼ』という名前をくれた人。    以前の彼はアタシを埋めた所へ来ては嬉しそうに微笑み、一日の出来事を話しながら頭を撫でてくれた。 でも、ある日を境にパッタリと来なくなってしまった。    アタシは彼との事を思い出し、淋しさが込み上げてきてしまった。 そんな時、アタシは決まって自分の頭に手を乗せ、ゆっくりと左右に動かしていた。 彼にされていた時の嬉しさや温もりは感じられないが、それで我慢する他なかったからである。   ―ガシャン、キィ…   ふいに『ごしゅじん』の帰ってきた音が聞こえた。 アタシは重い腰を上げ、その音のした方へ駆け寄る。   「ごしゅしん、ごしゅしん、おかえりなさい」  その声は彼に届く事はない。 けれど、毎日アタシはそう言って彼を迎え入れ、その背中が家の中へ消えるまで見送るのだった。
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