『ごしゅじん』

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薄暗く狭い部屋 病院独特の薬品のニオイ 差し込む微かな光…   誰かを呼び出す放送が流れたのが遠くで聞こえた気がした。   幾つもの足音   朦朧とする意識の中、アタシの居た部屋に一人の少年が駆け込んできた。 それが『ごしゅじん』だった。 『ごしゅじん』は、昔からやんちゃな所があり、病室を抜け出す事が日常茶飯事だったようだ。 無数に聞こえた足音は、そんな『ごしゅじん』を追いかける看護師たちの足音だった。   アタシは『ごしゅじん』の逃げ込んできた部屋のゴミ箱の中に捨てられていた。 少し前までは花瓶の中に納まっていた。 管理を怠っていた故に濁り、不味くなった水を飲まされ、弱っていたからだろう。 面倒臭がりな前・主はまだ新しい水を飲ませてくれたら元気になれるアタシを、あっさりと見捨てたのだ。   飛び込んできて間も無く、彼はこの部屋を過ぎていった看護師たちの姿が見えなくなるのを確認し、安堵したのか部屋の中を探索し始めた。 そして、部屋の角にあるゴミ箱に目をつける。 こうして、偶然にもこの部屋に佇んでいたアタシを、『ごしゅじん』は拾ってくれた。 看護師さんに“不衛生だ”と叱られるのも聞かずに。 『ごしゅじん』は毎日、沢山の水を飲ませてくれた。 アタシを“綺麗”だと言った。 初めてアタシの頭を撫でてくれた。 たまに『ごしゅじん』の病室に遊びに来る子たちがアタシの頭を撫でていったが、心地が良いと感じたのは『ごしゅじん』の手だった。 『ごしゅじん』の手がいちばん好きだった。
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