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『ごしゅじん』には幼馴染みの少女がいた。彼女もまた、彼の病室に訪ねてくる客の一人だった。
『ごしゅじん』は怪我の為に入院していたが、彼女は違った。
彼女は、生まれながら病弱な身体で入退院を繰り返していた。
そんな憂鬱な日々の中、『ごしゅじん』という光が差し込んだのだ。
『ごしゅじん』の病室へ足を運ぶ事が多くなり、アタシはそれをただ見ていた。
毎日二人は幼い頃の話に花を咲かせ、笑い合っていた。
とても楽しそうで羨ましかった。
そんなやり取りを見ていて分かった事。
それは、彼女が『ごしゅじん』を好いていること。
一人の異性として。
アタシの胸にチクンと鋭い痛みが走った。
何やら少し心苦しい気もした。
初めての感覚にアタシは戸惑ったのを覚えている。
それが“嫉妬”だという事を知るのには然程時間はかからなかった。
それから彼女が『ごしゅじん』の病室に訪れる度、アタシはその違和感に苛まれることとなった。
それから数ヶ月後……
少女は短い生涯に幕を閉じた。
『ごしゅじん』の耳にも、その報せが入る。その時、アタシは初めて『ごしゅじん』が涙を流したのを見た。
今でも鮮明に覚えている。
彼が声を上げ、大粒の涙を幾重にも流したのを…
『ごしゅじん』は数日眠れずにいた。
その間、ずっと涙は流れ続けた。
すると、枯れたのだろうか…
吹っ切れたかのようにはたりと止まった。
虚ろな目、腫れ上がり熱をもった目蓋。
アタシは端からそれを見守る事しか出来なかった。
それがとても辛かった。
その姿を見ているると、とても胸が痛かった。
その日以来、『ごしゅじん』の涙を見る事は無かった。
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