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ほんの些細な出来心だった。
少しだけ。ただ指に触れるだけでもいい。
『ごしゅじん』の居る所へ行きたい。
勿論、周りからは猛反対を受けた。
しかし、アタシの決意は揺るぐ事はなかった。
『ごしゅじん』に会いたい
それだけが、臆病なアタシを突き動かしていた。
――夜…
皆が寝静まった頃。
アタシは物音を立てないように細心の注意を払いながら『ごしゅじん』の住む家の玄関へと足を踏み入れた。
一歩一歩、慎重に足を進めた。
姿は見えないにしろ、何かしらにぶつかれば物音を立ててしまうのだ。
誰かを起こしてしまっては悪い。
変な心配をしつつ、おっかなびっくり家の中へ中へと入っていく。
―ガチャッ
水の勢いよく流れる音と同時に背後で大きな音がした。
ドアを開ける音であろう。
咄嗟に頭を抱え身を小さくする。
見える筈もないのだから、そんな事をする必要はないのだが小心者な為にこんな惨めな体勢になってしまった。
背後の気配が自分に近付いてくるのを感じる。
ふいにその気配に髪の毛を掴まれ、驚いて後ろを振り返った。
『ごしゅじん』だった。
「お前、誰だ…?」
訝しげにこちらを見ている。
アタシはというとそのまま硬直し、驚きのあまり口をパクパクさせて相手に釘付けという状態。
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