もっと!シメる夫!! 【長男の章】

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その夜は、大変だった。 長男の口から、今日一日の出来事を訊いた夫は、またしても無言になってしまった。 シンと静まり返った、 食卓――。 お喋りもせず、黙々と、口を動かす息子達――。 子供なりに、この場の 空気を読んでいる…。 夫の『無言』の意味が、 分かっているのだ。 『お通夜か?』と思う程陰気な夕食であった。 誰も何も喋らない。 時折、盗み見る夫の顔は無表情であったが――。 これは、怒ってる。 烈火の如く怒ってる。 私には分かる! 先頃起きた次男の事件の比ではない。 もっと物凄い勢いで、 もっと激烈なまでに、 怒り狂っている。 もう完全に、 レッド・ゾーンを、 振り切った状態だ。 ……ヤバイ! 嫌な予感、再び―!! 夫が、内なる怒りの炎を燃やしているので、 まだ2歳の三男でさえ、黙っておとなしく夕食を済ませた。 ……有り得ない状況だ。 夕食後も、重苦しい沈黙は、ずっと続いていた。 嗚呼…。 なんて、 居心地が悪いのだろう。 コレは本当に私の家か? 刑務所か鑑別所か、 又は、閻魔大王の御前ではないのか? …ここはどこ?私は誰? めくるめく様な時間が、バクバクと過ぎて行く。 ――しばらくして。 バアちゃんが長男を連れて、一足先に自分の寝室に向かった。 長男は、4歳の頃から、バアちゃんの寝室で、 寝ているのだ。 私もそろそろ、 次男と三男を寝かし付けなくてはならない。 ――だが。 「……。」 チラと振り向いた視線の先には、『石像』の様に 固まった夫が見えた。 「……え~と…。」 「………………。」 「…あのぉ…。」 「……………。」 「私、子供達を寝かせて 来るから…。」 夫は、 目だけをギラリとこちらに向けて、『――っ!』と言った。 言葉は無い。 鬼気迫る、この沈黙が、『答え』だ。 …こ、怖い……。 怖すぎる!! その恐怖に耐えられなくなった私は、二人の息子達を連れ、速やかに、 寝室へ向かった。 …やや小走りだった。
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