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時間が経つにつれて、明かりが無く暗い室内に目が慣れてきていた。
廃ビルの外観とは裏腹に、中は驚く程綺麗であった。
殺風景な室内の床には埃一つ無い。
カビ臭さを覚悟していたが、それも無い。
――流石は奴らが買い取っただけの事はある…――
今の師団に転属する前の連隊で、兵営を掃除する二等兵を配島は見たことがある。
今でも鮮明に思い出すあの光景…
必死に床を拭き、綺麗にし、しかし内務班長の上等兵に殴り飛ばされて泣きながら床を拭きなおす若い二等兵達。
顔にみるみる痣を作り、泣きながら床を拭く…
結果、顔一面紫色に染めあげた二等兵達とは対照的に床はピカピカに磨きあげられた――あの光景。
しかし、今居る廃ビルの床は、その連隊兵営のそれより綺麗に手入れされている。
――死に者狂いで床を拭く彼等ですらここまで綺麗には出来まい――
そんな事を考えながら目的の物を探そうとしたが、どう見てもここには無かった。
この階に無いならば、二階の元営業事務室、そして三階、つまり元社長室のあった階にある事になる。
あまり乗り気ではないが、二階に行かなければならない。
殺風景な部屋の中から階段を見落とす筈は無かった。
…出来れば見付からなければ良かったんだがな。
有り得もしない事を呟く自分に呆れつつ階段に向かう彼の足を止めたのは、そこから降りてきた人影だった。
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