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「なんだよ」
少し頬が赤くなっていたりするところが可愛いと思ってしまう。
「ううん。降りる」
「おぉ、そっか」
ゆっくりと傾けられ、あたしは右足からそろっと地面に足をつけた。
手を握ったり開いたりして印が結べるか感触を確かめる。
いける――良し。
動きに支障が出るような傷は一つもない。所々痛みのある箇所が体にあるが、気になるほどでもなかった。全て防御に特化したミスリル製の防具のおかげか。
ロインが背中の大剣を抜き放ち、言う。
「来るぞ」
それを合図に黒い影が頭上を通り越し突風が吹き荒れた。
バサッ バサッ バサッ
徐々に高度を下げる影が地面に豪快に降り立つ。
黒く変色する前は神々しいとすら思える偉容をたたっていたのに対し、今ではその輝きは失せてしまっている。
金色だった眼光は闇色に霞み、赤紫に輝いていた鱗は泥がついたように黒い何かで汚れていた。
その姿はまさに狂気。恐怖を全面に押し出し、獰猛な獣さながら鼻を鳴らしている。
「……どうしちまったんだよ」
悲痛な面持ちをしたロインの呟きが終わると、待ってましたと言わんばかりに影が走った。
影の、ヴァルハイドの強靭な筋肉でできた足は大きく、一歩一歩が人間より速い。地響きを轟かせ近づく影はあたしを狙っているようだ。
ロインがあたしとヴァルハイドの間に割って入ると、後ろへ下がるようにと目で言ってきた。
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