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前脚だと思っていたものは実は器用にも腕を組んでいる。
ただ大地を蹴るだけでなく、複雑な動きを見せるあれは間違いなく二本の腕だ。
後脚も後脚であって後脚でない。あれは直立して立てる脚。
翼も違った。
ドラゴンのように皮膜がついていない。強靭な骨格からは皮膜のかわりに、極光に似た薄い炎の膜が翼にはあった。
やはり全く違う種族。
龍のようで人に近く、人に近いが、やはり龍と言うべきもの。
翼の後ろに火焔光背として纏う炎がゆらゆらと空間を歪め、たゆたう。まさに後光。
腕を組んだ小さな、しかし大きな“ソレ”はゆっくりと宙から祭壇の岩へと二本の脚をもってして降り立った。
その姿は絶大。
炎のように荒々しく獣のような獰猛さがあるのにも関わらず、しかしどこか美しく寛容で、敵意や殺気がないのもそうだが俺は今――心を奪われていたといっていい。
「くっ」
一瞬カクンと膝の力が抜けてしまうのを必死でこらえた。
あの絶対感の前には頭からとろけてしまいそうな感覚に陥ってしまう。
それでも自分に檄(げき)を入れ、なんとか意識を保とうとした。
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