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ヴァルハイドと対峙した時には恐怖を覚えた。眼前に迫る死に恐怖した。今は違う。今俺は、死を覚悟している。他の人間ならばここで地面に両膝をつき跪いているだろう。
焔の龍は高い祭壇から悠然と飛び降り、着地すると脚裏や関節や口腔から炎が漏れた。
一歩一歩、確実にその焔の龍は俺の元へと歩み寄って来ていた。
その何気ない動作にすら神がかり的なものがある。魅入っていた俺はようやく龍が目の前に来て我を取り戻す。
昆虫がわさわさと這う感覚が背中を襲った。まさかこれほどまでとは……。
緊張に緊張が重み、究極なまでの力の前に魂が抜けそうで硬直してしまう。
龍は言った。
――これは失礼した、王よ。
我が火焔を纏っていては姿を視認する事は叶わない道理。ふむ。
それと、緊張しているのか?あまり強張ってばかりいると肩がこるぞ、王よ。
「……ハハハ」
乾いた笑いが口をついた。
見た目とは裏腹に、
なかなか気さくなドラゴンのようだ。
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