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「なら……どうしろってんだよ。ただぼーっとここで眺めとけって言うのかよ!冗談じゃないぜ!俺は行く。行って、あいつだけでも助けるんだ」
食って掛かる俺に、やはりファタルガオラは落ち着いた口調で答えた。
『だから焦るなと言っているだろう、王よ。
何故王がここに我を呼んだのか。何故我が王の呼び掛けに応えたのか。
なぜあなたが王なのか』
「なぜ俺が王……なのか」
『そうだ、王よ。
王はまだ幼い。これから荒波のように押し寄せるであろう運命に、宿命に、使命に立ち向かうには……今の王では幼過ぎる。力が足りなさ過ぎる』
心の中でファタルガオラの言う事を反芻させる。
俺の……使命。
『我が力の一部を王に貸し与えよう』
そう言いながらも、どんどんとファタルガオラの躯が光の粒子となって虚空へと消えて行っていた。
『あの竜は苦しんでいる。
本当は生き抜く以外に、無闇に殺生をしたくないのに』
ファタルガオラの右腕が今や透けて見える。
『苦しんで苦しんで。
苦しみ悶えている。
あの竜は母親。我が子を亡くしたようだ。
人間の手によって』
だから町を襲ったのか。
頭の中で散り散りだったパズルが結ばれていく気分だ。
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