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「……どういう……事だ?」
俺は確かにニイナがあの巨大な足に踏まれる瞬間を見た。
『わからぬ。何故娘が無事なのか。傷一つついておらぬな』
頭の中に直接響く声の主は紅蓮竜ファタルガオラ。俺の両腕にはめている赤い籠手をくれた竜だ。耳から聞こえるのではなく、頭に直接だから周りにはこの声は聞こえてないのかな。
まぁ、なんでもいいが。
ファタルガオラの言う通り、ニイナは浅くくぼんだ地面に生きて、静かに横たわってる。踏み潰され絶命したと思ったのだが、ただ意識を失っているだけのようだ。
多少汚れはあったものの、傷らしい傷はなかった。
『む?微かに精霊の匂いを感じるぞ……』
「匂い?」
『言うなれば、波長だ。
ここに精霊が、しかもかなり魔素濃度の高い、むしろ魔に近い。
まさか、精霊王が?』
まーたわけわからん専門用語を使い始めたぞ、こいつ。
『王の心の声は頭に思っただけで我にわかるのだが……』
「おっとぉぉ!!」
つー事は一人でぶちくさ言わなくてもいいって事だよな。もしファタルガオラの声が他人に聞こえてたら、会話は成り立っているが誰と話をしているのか、人物がいない。
ましてや、もしファタルガオラの声が周りの人間に聞こえていなかった場合、俺はただのアホである。「お母さん、あの人さっきから腕に向かってしゃべってる」「しっ、見ちゃいけません」なーんて事になりかねん。
『我の声は他人には聞こえないはずだ、王よ』
いやいや、それは良かった。ファタルガオラのフォローのおかげで幾分かの羞恥心が消えた。
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