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あたしはロインから顔を背けた。
恥ずかしさと悔しさと、そして再び涙を流している自分を見られたくなかったから。
「ほっとくのもあれだし、何より部屋に鍵がかかってなかったからな。夜中に鯰のおっさん起こして鍵もらうのもなんか気がひけたし……とりあえず俺は一旦部屋に戻ってから布団を持ってきて、んでからお前の部屋に行って内側から鍵をかけたってわけだ。いや~でも朝起きたらお前が隣にいたもんだからビックリしたぞ。まさか俺がぁぁぁぁ!?みたいな――」
「ありが…とう……」
「あ~……あ?」
「……ありがとう」
「あァ」
優しい、ロインの声。
長いような、短いような。そんな無言の時間がしばらく続いた。
あたしが泣き止むまでロインは黙っていた。
黙っていてくれた。
特に優しい言葉をかけてくれたわけではない。
同情に満ちた眼差しを向けるわけでもなく、涙した理由を聞かず、ただ黙ってあたしの傍にいてくれた。
変な気遣いをされるよりよっぽどイイ。
目をぬぐい、乾いた涙をパジャマの袖でこすり落とすとロインの方を向いた。
「……落ち着いたか?」
ロインは笑顔で言ってきた後、照れたのかそっぽを向いてしまう。
「ぅん」
それにあたしも笑顔で答えた。
「よし。それより、ボタンつけろよ。すげぇ事なってるから」
言われてあたしは気付いた。パジャマの上2つのボタンが外れてしまっている事に。
……っは。
どげしっ!!
反対を向くロインの後頭部に見事右チョップが炸裂した。
あぁぁ~……、台無しだよ。
あたし達は布団から這い出し、しばらく無言のまま支度をすませたのであった。
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