◇始まりの旋律

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  「嵯霧…?」 アゲハが 彼の名前を呼べば。 ピアノの音色は消えた。 「揚羽蝶か……」 彼はゆっくりと こちらを向き、 相変わらず無表情。 「なに、揚羽蝶って……。 いまのピアノは、 やっぱり嵯霧か?」 「そうだけど……」 そう聞けば、 人差し指で鍵盤を押す。 ポーン、と静かに響く。 初対面のとき、 彼は敬語だったが。 だけど今、 タメ口で話してるから、 何か印象が違う…と アゲハは思った。 それについては、 なんとも思わない。 まぁ、自分も 主人の前以外は違うのだが。 「綺麗な音色だな……」 扉に寄り掛かり、 そう言ってみた。 だけど、彼は無言で。 ポーン、ポーン 何故、だろう。 たったそれだけのことなのに、 切ない感情が流れてきた。 .
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