◇始まりの旋律

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  少しばかり、戸惑った。 「そういったことでは、 悲しいものなのか……。 この曲は、 そういうテーマなんだ」 「……テーマ?」 どうして。 そう何回も、弾くのか。 曲だけじゃなく、 彼自身も切なく、感じてきた。 弾きながら、 また口を開く。 「……この曲の作者は、 ある“願い”を持ったんだ。 だがその願いは、 その人にとっては とても残酷なものだったんだ」 曲は繊細に、 時には激しくなる。 「残酷…?」 「その願いは、 “禁断”と同じだったからさ」 「っ、」 胸が、裂けるよう。 「だから、 その人は思ったんだ。 “願い”は 本当は何の為にあるの だろうか、と」 最後は切なく、終わった。 「ピアノを弾くことを 得意としたその人は、 その願いを、 旋律に変えた……」 「……………」 「切なくて、苦しくて。 何故だろう、と 何回も何回も思いながら……」 気のせい、だろうか。 彼は少し、 淋しそうな顔をしていたのを。 .
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