◇始まりの旋律

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  嵯霧は立ち上がり、 アゲハの方にゆっくりと 歩み寄ってきた。 アゲハの頭の中で、 危険信号が鳴った。 この男は危険―――だと。 嵯霧が近づいてくる度に、 アゲハは後退りする。 ピタッ、と 嵯霧はアゲハの傍まで 来た。 アゲハは 冷や汗が流れるのを 感じていた。 此処から逃げたかったのに、 逃げられなかった。 そして、 嵯霧は口を開く。 「逃げたって巡るばかりさ」 「っ、!?」 目を、見開いた。 その言葉は、 彼と初対面の時。 気のせいだと、 思っていたその言葉……。 戸惑いと、複雑な表情を アゲハは嵯霧に見せた。 それを見た嵯霧は、 フッ、と笑った。 そして壁に寄り掛かり、 腕を組みながら言った。 「逃げたって、 意味ないのになあ」 「っ、お前……っ!」 叫びそうに、なった。 「それはお前が1番、 わかってるんじゃないのか? いつも逃げても、 同じことを繰り返す……」 「…………っ」 胸が、苦しくなった。 何故、この男が 知っているのだろう、と アゲハは混乱しまくった。 「……なぁ。 “陽”は元気か?」 「!!」 その瞬間、 アゲハは部屋から 走り去った。 「……………」 ポーン、と鍵盤を押す。 「The wish is a swallowtail.」 その奏でる指先は、 すべてを知っているのか。 .
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