◇始まりの旋律

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      「やぁ、久しぶりだね」 豪華で広い、薄暗い部屋に、 二つの、影。 「……お久しぶりです」 「君から誘ってくれるなんて、 珍しいね…アゲハ」 一人は、アゲハだった。 もう一人は、 アゲハの“客”だ。 ソファに座る男に、 アゲハは跨がった。 そしてスルリ、と 白い腕を男の首に回した。 「今宵だけは、すべてを 忘れたいんです。 ……忘れさせてくれますか?」 「君が望むならば」 男は笑ったあと、 噛み付くようなキスをする。 激しくて、 本当にすべてを、 忘れてしまいそう。 「ひゃあっ、あぁっ」 アゲハは、 艶やかな声で喘ぐ。 そんなアゲハに、 さらに男は、 欲を膨らます。 「アゲハ……っ」 「あぁああっ、」 すべてを忘れそうな、 ……筈だったのに。 胸の奥で、 ザワザワが止まらなかった。 切なく、悲しく。 アゲハはずっと、 瞳を閉じていた。 『……揚羽蝶……』 誰かの声が、 頭の中に響いた。 「ふあっ、あぁあんっ」 そして、 嵯霧が奏でていた 旋律も流れてきた。 切ない、曲。 抱かれる揚羽蝶は、 静かに涙を流していた―――。 .
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