いち

2/3
前へ
/57ページ
次へ
   高級マンションなんて初めて来た。 バイクを停め、ヘルメットを脱ぎ、ピザを抱えてエントランスへ。  部屋番号を少し緊張しながら押すと スピーカーから「だれ?」という声が聞こえてきて ぎくりとする。 「あ、ピザお届けに参りました」 そう告げると返事もなく、 閉まっていたガラス扉がすっと開いた。     Sugar×Sugar      垣内…、うさぎ?  表札には垣内兎波と書かれていた。兎に波。 なんて読むんだろう。  そんな事を考えながら深呼吸をひとつして 部屋のチャイムを鳴らすと、 程なくして部屋の主が現れた。  ………。  なにこの人。  変わった人。  歳は僕より少し上っぽい。 背丈は184㌢の俺より頭一個ぶん小さく、 多分160あるかないか。 見るからに柔らかそうな猫毛っぽい黒髪は 寝起きなのか所々ぴょんぴょんと 寝癖がっいる。 男の人にしては珍しい ピンク色のTシャツ。    そんな事より気になってたのはクマの縫いぐるみ。 左手に、まるで手を繋ぐかのように、 縫いぐるみがぶらんと 垂れ下がっていて、その姿はまるで、縫いぐるみを抱いて寝て起きた子供のようだった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加