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「幾ら?」
「980円です」
伝票を渡すと彼はそれを確認するでもなく
ポケットに無造作にしまい込み、
千円札を僕に差し出した。 うわぁ 指、細!
骨の上に皮膚しかくっついてないじゃないかと
思うくらいに細い指。
「20円のお返しになります
ありがとうございました!」 帽子を脱いで一礼すると、
彼が不思議そうに僕の頭を見上げた。
髪の色が気になるのか、僕の頭を見ていた。
僕はいわゆる混血で、クォーターだ。
祖父がフランス人なので
日本人に比べ髪や肌の色素が薄い。
本来は人より少し茶色というぐらいの、
髪色だったのだけど
肌が白めの僕には似合わず
蜂蜜色に染めている。
行きつけの美容院で
かなりの時間がかかる面倒くさい色。
「それ何色? 染めてんの? 自前?」
物珍しげに僕を見上げ、
細く華奢な指が僕の髪を一束摘んだ。
「一応クォーターなんですげど…
髪は染めてます、これは
ハニーピンクって色です」
「ふうん」
上から下まで僕を眺めて、ふと彼の目線が胸元で止まる
ジッと凝視
「名前 なんて読むの?クロ?」
「くろう、です。近森空狼」
「スカイウルフね。飛べんの?」
からいを含んだ悪戯な瞳
「冗談だよ、じゃ」
返事に詰まった僕を一笑いして彼は、奥に引っ込もうとする。
何故だかはわからない。
僕は彼を呼び止めていた。
「あのっ」
「なに?」
「あの、垣内さんは…その、
お名前なんて読むんですか?」
僕がスカイウルフならば、
垣内さんはラビットサーフ。
どう読むのか知りたいと思った。
「となみ、じゃね、クロ!」
ばたんとドアが閉まる。
だからクロじゃありませんってば…
それが僕と垣内さんの出会いだった。
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