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「弘康。あなたもうすぐ大学生なんだから大概一人で起きなさいよ」
母さんが俺に背を向けたまま言った。週に三度は言われる台詞であるはずで、俺はいつも曖昧に返事をして受け流していた。
だけど、今日だけは何故か箸が止まってしまった。
「じ……時間ないし、もう行く! ご馳走様でした!」
別に居心地が悪い訳ではなかったが、俺は箸を置いて高校三年間を共に過ごしたそれなりに傷んだ鞄を持ってリビングのドアノブに手をかけた。
「ごめんなさい」
意味もなくリビングを出る時に小さくそんな言葉が零れた。母さんの姿を見ないで「いってきます」と最後に言ってドアを閉めた。
「中学ん時にはこんな事なかったのにな」
そんな事を呟きながらマフラーを巻き、玄関から出た。
駐車場に停めてある自転車にまたがり、高校に向けて俺は走り出した。
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