門出

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何の感情も籠っていないと言えば言い過ぎかもしれないが、少なくとも形式的なPTA会長や校長の挨拶を終えた。 そして、これもまた形式的な各クラスの代表が卒業証書授与が行われた。 ここで俺の腹はピークを迎えていた。緊張していようが何であろうが腹は減る。さらに追い討ちをかけたのが、朝食をあまり食べていない事だった。 在校生による送辞を終えて席に着いた段階で、腹から小さな音が鳴った。 隣りの将史を横目で見ると特に気付いていないように見えた。 「答辞。卒業生、在校生、職員。起立」 教頭の何の感情も籠っていないような淡々とした声が聞こえた。俺は腹の事で頭が一杯でワンテンポ遅れてしまった。慌てて立ち上がると将史は小さく笑みを浮かべて俺を見ていた。 俺も何となく照れ笑いを将史に返して、誰もいない壇上を見た。 「卒業生代表河原綾子」 「はい」 教頭の声のすぐ後に、河原さんのよく通る澄んだ声が響いた。目には見えないが河原さんが壇上に向かって歩いているのが、足音から解った。
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