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代表者が先生方に花束を渡し、御礼の言葉を言うと、静かにピアノの音色が響き始めた。
「さあ。歌おう。俺達の最後の、そして最高の歌を」
その音色が、そう囁いている気がした。
涙を堪え続ける俺は、殆ど声が出せない。
いや、涙なんて関係ない。
心を満たすこの三年間の想い出が終わって欲しくないと、告げているのだろう。
それでも必死に声を出し続けた。ちゃんと歌っているかも解らない。
だけど……。
この高校への感謝を。
この担任の先生方への感謝を。
この級友達への感謝を。
そして何より親への感謝の気持ちを込めて。
歌にならなくても良い。
綺麗じゃなくても良い。
ただ、感謝の気持ちが届くように願って、声を出し続けた。
最後のハミングと共に、ピアノの音色は体育館から去っていった。
そして俺達もこの校舎を去り、それぞれが別々の道を歩み始める瞬間がやってきた。
「ありがとう」
俺はそんな言葉を心の中で呟いた。この想いが、今まで関わった全ての人に届く事を願って。
「卒業生……退場」
教頭のいつもの歯切れの良い淡々とした声は、今は震えているような気がした。
「四組、五組、起立」
教頭の声と共に俺のクラスである五組、そして四組が立ち上がった。
俺達の『卒業』が始まった。
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