門出

8/16
前へ
/18ページ
次へ
代表者が先生方に花束を渡し、御礼の言葉を言うと、静かにピアノの音色が響き始めた。 「さあ。歌おう。俺達の最後の、そして最高の歌を」 その音色が、そう囁いている気がした。 涙を堪え続ける俺は、殆ど声が出せない。 いや、涙なんて関係ない。 心を満たすこの三年間の想い出が終わって欲しくないと、告げているのだろう。 それでも必死に声を出し続けた。ちゃんと歌っているかも解らない。 だけど……。 この高校への感謝を。 この担任の先生方への感謝を。 この級友達への感謝を。 そして何より親への感謝の気持ちを込めて。 歌にならなくても良い。 綺麗じゃなくても良い。 ただ、感謝の気持ちが届くように願って、声を出し続けた。 最後のハミングと共に、ピアノの音色は体育館から去っていった。 そして俺達もこの校舎を去り、それぞれが別々の道を歩み始める瞬間がやってきた。 「ありがとう」 俺はそんな言葉を心の中で呟いた。この想いが、今まで関わった全ての人に届く事を願って。 「卒業生……退場」 教頭のいつもの歯切れの良い淡々とした声は、今は震えているような気がした。 「四組、五組、起立」 教頭の声と共に俺のクラスである五組、そして四組が立ち上がった。 俺達の『卒業』が始まった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加