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「ゆびきりげんまん」
公園のベンチで小指を絡め、笑い合う親子を横目に立ち去る。
彼女は人気料亭の主人の妹で、着物が似合うこともあり店の看板娘をしている。
名は井上百合。18歳。
長い黒髪は、亡き母譲りで、濃いブラウンの瞳は父のもの。
兄と姉がいて、末っ子である。
「…ゆびきり、か…」
百合には、幼き頃から将来を誓った恋人がいる。
いや、いた。
10年前、自転車で遊びに行こうとしたところ、大型トラックとの衝突事故に遭い他界してしまった。
幼いながらも両想いで、両親も認め合う程、幼馴染みを越える絆で結ばれた二人だった。
百合は今でも好きでいる。
田部俊。
彼の命日は、皮肉にもキリストの祝日であった。
「…俊」
今年で、ちょうど10年目。
「…もう、そんなに、経つんだね…」
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