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本当に、彼が言うように、人生は自分でも知らないうちに、なにかが始まっているんだ。
その扉は勝手に、いつの間にか開いていて、取っ手すらない。
だから、私たちは自然に開くのを待つしかないんだ。
でも、それもいい。
それも楽しいじゃないか。
自分の手ばかり使っていると疲れるから、たまには自動ドアの前に立ってみたって悪くない。
「ねぇ、あんた」
彼が言う。
私は、はいと答える。
「もし、運命ってものがあるとしたら、またどこかで会いましょうね」
そう言うと彼は、黒目がちな瞳の片目を、パチッと閉じて、私に紙を差し出した。
「でも、困った時には助けを求めなさい。あたしは、力になれるだけ、なることにするわ」
私は笑った。
そうしてその紙を、かなり大事にバックにしまった。
その小さなメモには、携帯の番号が記されていた。
..fin
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