206人が本棚に入れています
本棚に追加
言いそびれた、とか自分が先に言いたかった、とかじゃなくて獄寺の目が見開かれた後表情が一瞬曇った気がした。
刹那の表情さえも、恋人同士の俺としては見逃す訳がない。
けれど獄寺は一見普通の笑顔、…俺から見れば無理していると言わんばかりの笑みでツナに「有り難うございます」とだけ告げた。
獄寺は気持ちが表情に出やすい。普段睨むように威嚇しているのは自分の心に入り込んで欲しくないだけで。その一皮を剥げばあまりにも無防備で、素直な人間なんだ。喜怒哀楽は激しいし、嘘がつけず言葉が素直じゃないだけ行動が分かり易い程に純粋。
そんな獄寺はツナの前だと何時も嬉しそうなのに今日の獄寺はあからさまに無理をしている。他の奴等は気づかないのだろうけれど。
頭はつんつるてんな俺でさえ、恋人の異変には気づくから恋愛は怖い。
しかし自身に納得している場合ではない。盗み聞きをしていた女子が甘ったるい声で話しかけると獄寺は嫌そうに顔を歪め盛大に舌打ちをし教室を出ていこうとする。
「あ…おい、獄寺!」
俺の声も聞かずに獄寺はすぐに俺の視界から姿を消してしまい俺は慌てて後を追うように教室を去った。
四限を知らせるチャイムが、二人の耳朶に響く中二人共足を止めようとしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!