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クリスマスの狙撃兵
薄明るい闇の中、三八式小銃を深く構える。掴むのは風に空気、自分の筋肉の振動、そしてそれらに至るまでの全てだ。
外気で冷え切った引き金に指を掛け、銃弾と薬莢が分かつ限界まで引き絞る。
息を止め、神に祈りを捧げよう。
どうか今から死ぬ彼の兵に安らぎの地を……。
限界をこえた撃鉄が、銃弾の後ろに付けられた火薬室を叩く。同時に巨大な風船を割ったような炸裂音が深く雪の積もる森に響く。
眠っていた鳥達が驚き飛び立つ音はもう数日聞いていない。木々から雪が落ちる、ドサッ、という音も後数日は無いだろう。
その代わり、真っ赤な血を雪の上に描きながら兵士が倒れる音はあと少しの間響き続けるに違いない。
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