麗しの君へ

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僕の中の黒い染みは、じわじわと広がり続けた。 小学校の高学年に上がる頃には、それはもう、ちょっとした違和感程度じゃなくなっていた。 はっきりと闇が見えはじめ、周りの人間たちと、自分は何かが違うのだと意識せざるをえなくなっていった。 誰にも暴かれてはいけない。 暴かれたらどうしよう。 恐怖にも似た感情を抱くようにもなった。 時には楽観的になった。 こんなことは、たいした事じゃない。 成長するにつれ、おとなになるにつれ、自然消滅していくだろう、とね。 小学校の図画工作、中学校の美術の授業で作った作品は、気に入ったものほどずたずたに切り裂いたりすることは続いたけれど、それ以上のことはなかった。 だからね、僕はだんだん安心し始めたりもしたんだよ。 自分で作ったものを自分でどうしようと、僕の勝手だろう? だけどやっぱり、それだけじゃ終わらなかったんだ。 今思えば、自分の中の破壊衝動を意識し始めてから、僕は大切なもの、愛着を持てるものを、半ば無意識に遠ざけて生きていたんだと思う。 適度に好感を持てるもの、極端に言ってしまえば、どうでもいいものばかりを身近に置いて、穏やかな笑み、という仮面をつけて生きていたんだ。
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