麗しの君へ

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僕は困ったことに、きれいなもの、可愛いものを好む傾向にあった。 最終的には破壊以外のどこにもたどり着けない、この僕がだよ。 本当に、僕って人間は、一体どこまでとんでもなく生まれついてしまったんだろう。 自分の習性を知ってから、僕はなるべく美しいものを避けた。 たとえば、美術館だ。 一度だけ、ガールフレンドに誘われて、絵画展に出かけていってしまったことがある。 広い会場の中で、僕は吸い寄せられるように、一枚の絵の前でぴたりと立ち止まってしまった。 本当に美しい風景画だったよ。 僕たちの周りに、常に当たり前に存在している空気や水の色までが、完璧に表現されていた。 小さな女の子がおとぎ話のお姫様を夢想するように、僕はその絵に陶然となった。 ほかの絵には目もくれず、ひたすらその一枚を見つめ続けた。 一体どれくらいの時間、その場に立ち尽くしていたのかしれない。 僕は心配になったよ。 美術館が厳重に保管しているとわかっていても、いつどんなはずみで、この絵が損なわれてしまうか。 いつまでこの保存状態を保っていられるのか、保証は何もないんだからね。 僕は自分の行動を意識する間もなく、目の前のロープを踏み越え、その絵に手をのばしかけた。 もしも連れのガールフレンドと警備員が気付くのが一瞬でも遅かったら、どんな行動に出ていたのか、想像するのも恐ろしい。 以来、二度と、美術館には近づいていない。
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