麗しの君へ

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それから、小学生の時に避けたのは、生き物や植物の世話係だ。 僕は生き物を殺したことはなかったけれど、特定の生き物の世話をやいて、愛着がわいてしまったらどんなことをしてしまうんだろう。 それを思うと恐かったんだ。 僕たち人間と同じように、生きて、動き、温もりのあるものを、まさか傷つけたり、ましてや殺したりなんてするはずがない。 そう思いたかったけれど、信じることはできなかった。 僕が動物にも植物にも、何の関心も持たない少年だったらよかったのにね。 皮肉な話だよ。 もっと冷酷で、何にも心を動かされない人間だったらよかったのに、と何度も思ったよ。 いや、ある意味、僕は最も冷酷と呼ばれるべきなのかもしれないけれど。 十代の頃、何人かいたガールフレンドたちとは、いつでもあまり長続きしなかった。 原因は、まあ、僕のほうにあったんだろう。 彼女たちを、そんなに好きではなかったんだから。 でもね、高校三年の時に付き合った女の子で、ただひとりだけ、僕は本当に好きになってしまいそうなことがあった。 いや、すでに好きになっていたのかな。 そんなことをあれこれ悩み出した時点で、もう恋が始まっている証拠だろうから。
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