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誰かがエサでもやってしまったのか、いつの間にか学校に居着いていた猫だった。
まだほんの子猫でね。
はじめて見かけた時は、両手におさまってしまうくらい小さくて、なんだか小刻みに震えていたよ。
汚れを知らない透き通るような瞳で、きょとんと僕を見ていた。
あのか細い鳴き声を、今もはっきり思い出せる。
僕は猫の標準的な成長速度なんて全然知らなかったけれど、見るたびに、順調に大きくなっているようだった。
ある日、僕は思った。
このままでは、きっとあっという間に、おとなの猫になってしまうってね。
そうしたらきっと、他の野良猫たちのように、自由気ままにどこにでも出かけていって、僕のことなど忘れてしまうだろう。
いや、そうしていなくなってしまうならまだいい。
最悪なのは、そこに居着いて、僕の目の前で変わっていってしまうことだ。
人間に与えられるエサを貪って、怠惰に肥満し濁った目をした姿なんて、僕は絶対に許せなかった。
エサをくれる人間になら誰にでもすり寄っていくような光景は、決して見たくなかった。
僕は授業をサボって、できるだけ深い穴を掘った。
そしてその、まだ成長しきっていない猫を、穴の底にそっと置いた。
穴の底と地面の上で、僕らは束の間、見つめ合った。
僕は、ひょっとしたら猫を安心させるような、穏やかな笑みを浮かべていたのかもしれない。
猫は奇妙なほど、おとなしかった。
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