麗しの君へ

15/24
前へ
/24ページ
次へ
そのまま一気に穴を埋めた。 もがく子猫の体に、どんどん土をかぶせていった。 生き埋めにしたんだ。 あの可愛らしかった猫を。 僕はずいぶん長い間、そばに膝を抱えて坐っていた。 猫がいつ絶命したのか、それはわからなかった。 静かだった。 ただ時計の針の位置で、もうとっくに死んでいるんだな、と思った。 身勝手で残酷だと、君は言うだろう。 僕自身それは理解していたし、猫がこの世から永遠にいなくなってしまって、とても悲しかった。 いつの間にか、あの猫の存在は、僕の心の奥深くにまで浸透していたんだね。 当然のことだけれど、僕はそのことを誰にも言わなかった。 もし誰かに知られてしまったとしても、おかしなことに動物を殺しても器物損壊の罪にしかならない。 もちろん、誰にも言わなかったのはそんな理由からじゃない。 法も罪の重さも、僕には関係ないことだった。 ただあれは、僕と猫だけの、とても重要な秘密だったんだからね。 誰にも、僕たちの間に割り込んでほしくなかった。 最期に見つめ合った瞬間を、神聖なものとして、僕の心の箱の中にしまっておきたいと思ったんだ。 僕たちの世界に誰も立ち入らないよう、僕は学校の敷地内で一番ひと気のない場所を選んで、できるだけ深い穴を掘ったんだよ。 目印になるようなものも一切ない場所に。 どこからどっちの方向に何歩か、僕は自分の記憶に大切に刻み付けたんだ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加