麗しの君へ

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在学中はもちろん、卒業してからも、何度かその場所に行ったよ。 ひょっとしたら、誰かが掘り返して、埋めなおし、穴の中はもう空だったという可能性もゼロじゃなかっただろう。 でも僕はかまわなかった。 言うまでもない事だけれど、穴を掘り返して猫の骨を確かめるような真似もしなかった。 あそこへ行くとね、僕は厳かな気持ちになれたんだ。 あの場所には、僕以外に知るひとはいなくても、確かに、何にもかえ難い一瞬が、永遠に刻まれていたから。 もしかしたら殺すことで、その存在は僕の中で、この世に生きて存在する何よりも尊いものへと昇華されるのかもしれない。 殺したことを正当化するための、ヘリクツに聞こえるだろうか。 ともかくそうして、僕の破壊願望は生き物にも適用されることが証明されたわけだ。 そのわずか数年後には、動物のみならず、人間にも適用されることが判明した。
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