麗しの君へ

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高校三年の時の彼女については、書いたとおりだ。 僕の態度が急に硬化し、冷たくなって、彼女は戸惑い、傷ついたことだろう。 君に出会った今だからわかることだけど、僕があのとき彼女を遠ざけたのは、彼女を想ってのことじゃなく、自分の保身のためだったんだと思う。 僕は恐かった。 人間を殺してしまう可能性を大きく秘めた、自分が恐かった。 それが僕の中の良心のせいだったのか、殺人犯として刑務所に入りたくなかっただけなのかは、正直、判然としない。 その両方だったというのが妥当な答なのかな。 けれどね、やっぱりそのどちらも、僕の本性を抑え切ることはできなかったんだ。 悪の種は芽吹いたんだ。 そして決して枯れる事なく、葉を繁らせ、花を咲かせたんだ。 僕は無事、大学を卒業したけれど、その頃にはもう、限界がきていた。 在学中にね、僕はとうとう人間を殺してしまった。 女子大に通う、二十歳になったばかりの女の子だった。 彼女は僕を愛してくれた。 美しく、脆く、内気で、恋をすると相手の男のことしか見えなくなってしまう種類の女の子だった。 もう何年も前の事件だけれど、もしかしたら君も新聞かテレビのニュースで見て、憶えているかもしれないよ。
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