麗しの君へ

18/24
前へ
/24ページ
次へ
僕にとって幸運だったことに、いや、最初からそれを計算に入れていなかったと言えば嘘になるけれど、彼女は秘密主義者だった。 恋人の話を周囲に吹聴するような子じゃなかったんだ。 僕と彼女は、お互いの大学の友人たちに、ほとんど強引に連れていかれた合コンで知り合った。 お互い、合コンなんて場を好む質じゃなかった。 だから出会ったその飲み屋で、僕らはほとんど言葉をかわすこともなかった。 逆にそれが、彼女を僕にひきつけたのかもしれない。 その場に明らかに馴染めずにいた僕に、彼女は自分との共通点を見出だしたのかもしれない。 僕らは時々デートをする仲になっていった。 彼女が僕に夢中になるのに、さして時間はかからなかったよ。 おとなしそうな女の子にありがちだろう? 一度火がついてしまうと、坂道を転げ落ちるように落ちていってしまう。 落ちていく先がどことも知らずに。 そうして彼女は、いとも簡単に僕の腕の中に落ちてきたんだ。 盲目的に僕を愛する彼女を、僕は可愛く思った。 僕はまるで愛玩動物のように、彼女を可愛がったんだ。 人間の、ひとりの異性としては、高校の頃、自分から遠ざけた彼女のほうが、よほど愛していたと思うよ。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加