麗しの君へ

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人間、何十年も自分の本性を押さえ付けておけるものじゃない。 猫を殺したあの日から、たぶん僕の中で何かが確実に変わり始めていたんだろう。 歪められていたものが、本来の形を取り戻そうとしていたのかな。 僕は主に、パソコンのメールで彼女と連絡を取り合っていた。 僕はフリーメールアドレスをいくつも持っていたんだ。 僕は彼女に、決して携帯電話の番号を教えなかった。 携帯を持っていないんだという僕の言葉を、彼女は信じた。 疑ってはいたかもしれないね。 でも自分から追及するようなことはしなかった。 ベッドの上で、僕は何度、彼女を殺したいと思ったかしれない。 けれど、そんな大胆なことはできなかった。 何しろ人間を殺した経験はまだなかったんだからね。 ひょっとしたら僕は、ただの殺人鬼の素質を持っているのかもしれないね。 あの頃の僕は、彼女をいかに殺すか、そればかり考えていたような気がする。 言い訳するわけじゃないけれど、高校の時の彼女に抱いたものの果たせなかった欲望が、心の中で肥大しつづけていたのかもしれない。
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