麗しの君へ

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僕は実家を出てからというもの、職もアパートも転々としていた。 両親は警察に捜索願でも出しているかもしれない。 それを思うと、申し訳ない気持ちになる。 君と出会った時、僕はもう疲れ果てていた。 君は粗大ゴミ置場に転がっていた僕を、拾ってくれた。 君には僕が、具合の悪い、助けを必要としている人間に見えたんだろうね。 救急車なんて必要ないと言った僕を、君はこの部屋に連れ帰ってくれた。 そしてあろうことか、その後何日も、僕をそのまま置いてくれた。 君にとっては、捨て犬や捨て猫を拾ってきたのと大差なかったのかもしれない。 そして僕は、まんまとここに居着いてしまった。 でも、いいかい。 僕がこんなことを言うのもおかしいけれど、もう二度と人間なんか拾っちゃいけない。 どんな重病人だろうと、女の子ひとりの部屋に、他人を上げちゃいけない。 約束だよ。 それは本当に危険なことだから。
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