麗しの君へ

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これは誓って言えるけど、僕はその犬を嫌っていたわけじゃないよ。 つぶらな瞳も、短いしっぽをちぎれそうなほど振る姿も、愛くるしいと感じていたんだ。 だから、もし、彼が僕に懐いてくれるようなことがあったら、僕は心から愛したにちがいない。 だからね、彼はとても賢い犬だったということになるね。 僕は、家でも外でも、そつなく振る舞う子どもだった。 すでに書いたように、家族にも大切にされたし、学校でも何の問題もなかった。 なさすぎるくらいにね。 教師には信頼されたし、生徒の誰からも反感を買うようなことはなかった。 人気者だったと言っても過言じゃないかもしれない。 学級委員には推薦されて何度かなったし、一度は生徒会長なんてものにまでなったよ。 笑っちゃうだろ? この僕が、一般生徒たちの代表めいたものだったことがあるなんてね。 中学高校時代には、何人かのガールフレンドもいた。 来る者拒まず、ではないけれどね。 何人かの女の子と付き合ったよ。 彼女たちが、一体僕なんかのどこに惹かれたのか、不思議で仕方なかったけれど、僕の笑顔は感じがよかったらしい。 そして彼女たちの僕に対する印象のもうひとつの共通点は、僕がとても落ち着いていて、おとなびて見えるということだった。
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