麗しの君へ

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高校を卒業し、僕は大学に進学した。 まあ全国的に名の知れた大学だ。 僕自身が特別大学に行きたかったわけじゃなかった。 でも両親はそれを望んでいた。 こんな僕でもね、あえて両親を失望させる道を選びたいとは思わなかった。 彼らを喜ばせたり、安心させてやることができるなら、それが自分に可能なことならば、してやりたいと思ったんだ。 両親の僕を見る目には、盲目、それから理想というフィルターがかかっていて、時にはそれを壊してしまいたくなることもあったけれど、おおむね、彼らの幻想を少しでも長続きさせてやりたいと思っていた。 僕はね、彼らに本当に感謝していたんだ。 もっと、いくらでも酷い親の元に生まれる可能性だって、十分にあったわけだからね。 大きな問題もなく僕を育ててくれた彼らに、恩を感じていた。 毎日の、何年も何年も積み重なる生活費。 誕生日やクリスマスのプレゼント。 そして教育費。 彼らは一体、僕ひとりのためにいくらの金を使わなければならなかったんだろう。 ずいぶんな出費だ。 親という生き物は不思議だね。 無論、例外もあるけれど、たいていの親は、我が子のための出費なら厭わない。 妊娠した瞬間から学校を出るまでにかかる金を、むしろ喜んで払うんだ。 我が子のためにできる限りのことをする。 あなたも自分の子を持てばわかるようになる。 世の親たちは、口を揃えてそんなようなことを言うけれど、どうなんだろう。 本能の力は偉大だ、とでも言うべきかな。 なんて言いつつ、実は僕自身、子どもができたら猫可愛がりするタイプなんじゃないかと思ったりするんだけれどね。
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