麗しの君へ

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団子作りに夢中の彼女の傍らで、僕は山を作っていた。 山の形は、僕の頭の中にくっきりした姿で浮かんでいて、少しでもそのイメージからずれると、何度も何度も作り直した。 出来上がると、今度はトンネルを慎重に掘っていくんだ。 もちろん、トンネルもイメージどおりじゃなきゃダメだ。 そうして、うまくすると、頭の中にあったそのままの山とトンネルが完成する。 僕はそれを、うっとり眺めるんだ。 色んな角度からね。 誰かがちょっとでも手を触れようとするのも許さなかった。 そしてね、周囲が呆気にとられるほど唐突に、完璧に仕上げたその山を、乱暴に蹴り飛ばして無惨に破壊するんだ。 跡形もなくなるほど。 その瞬間の快感は、なんとも説明のしようがない。 誰にも指一本ふれさせたくないほど大切なものをぶち壊す、その瞬間の、喪失感と解放感。 君にわかるだろうか。 最初から壊すために、そんなにも熱心に作るわけじゃないんだ。 そこが一番説明しがたいところだけど、作っている最中は、本当に、ただ純粋に自分が思う形を追求して、一生懸命なだけなんだ。 望むものが完成して、それを眺める時、僕は心から幸福なんだ。 けれどその幸福感が大きければ大きいほど、破壊願望も強まる。 大切なものほど壊したい。 そんな大袈裟な言い方をしなくたって、幼稚園児が作った砂の山なんて、壊せばいいさ。 いくら作ろうと壊そうと、たいした事じゃない。 だけどそう、成長するにつれて、砂の山なんかじゃすまなくなっていったんだ。
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