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木曜日――
俺はなにが何でも21時26分発の電車に乗る。
理由は単純。
コンビニに行くため…否、彼女に『いらっしゃいませ』と声を掛けられたいから。
艶を無駄に放つ革靴は昨日新調したばかり、しかし階段を掛け上がるには最適ではなく、靴下越しに皮膚が擦れて踵が悲鳴を上げる。
ホームに電車が滑り込んでくると同時に、俺もホームに滑り込みギリギリセーフ。
22時09分にきっかりに電車は駅に着いた。
期待する高揚感は心拍数を跳ね上げ、つられて歩調はスタッカート。
俺を拒否するかのごとくシャッターを降ろした店が並ぶ中、唯一、帰りを待ってくれるのが明かりを灯す一軒のコンビニ。
自動ドアが開くと共に、トーンが高い女声。
「いらっしゃいませぇ」
ただいま…
俺の頭で「いらっしゃいませ」は「お帰りなさい」に自動変換される。
勿論、彼女の「いらっしゃいませ」限定。
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