The rain of last moments

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「とりあえず、時間を…」 「あげない。返事は今すぐ」 何て自分勝手なんだろう。 まぁ、桜太が元々こういうヤツってことは分かってるんだけど。 何せ幼稚園からの付き合いで、もう15年になる。親同士も仲良くて、兄弟のように育ってきたんだから。 でも、今回は違う。 「好きです」とか、「付き合って下さい」とか、そんな言葉の返事ならすぐに出来るかもしれない。 でも、よりによって桜太が言ったのは「愛してる」。 私にとってその言葉は、「好き」の最上級の言葉。 「…なぁ悠嘉、返事まだ?」 何故か焦った様子の桜太。瞳の中に焦燥感がにじんでいて、本当に焦っているのが分かる。 なんでこんなに焦っているの? このどしゃ降りの雨の中来たはずなのに、全身どこも汚れてないのを少し不思議に思った。傘も持っていないのに、頭も肩も濡れてない。制服のパンツに泥のはねた跡もない。 「ねぇ、おう…」 「ゆっ、悠嘉ー!」 返事を迫られたかと思うと、家の中からいきなり聞こえてきたお母さんの慌てた声。 いつもはそんなに慌てた声なんて出さないお母さんの切羽詰まった様子に驚いて肩が跳ねた。 「えっ、何!?」 「…やばっ」 不意に聞こえてきた桜太の声。 そして、いきなり肩と頭を引き寄せられた重みと、唇に温かくて柔らかい感触。 「ー…っ!?」 咄嗟のことで瞼を閉じてしまったけど、何が起こったのか一瞬で分かった。 「何するっ…!」 瞼を開いて抵抗しようとすると、手は空を切った。 目の前にいたはずの桜太の姿はすでにない。 …なんで?どういうこと? 玄関は、開いたまま。 外からは、相変わらず雨の音だけが聞こえてくるけれど、それに足音は混じっていない。 ひんやりとした冷気が玄関から入ってきて、少しだけ身震いした。 こんな短時間の間で、音もなくいなくなるってどういうこと? 音もなく姿を消せるはずはない。特に、今日は雨だ。水溜まりを踏む音さえ聞こえない。
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