333人が本棚に入れています
本棚に追加
私から視線を反らした桜太の母親が、震える人差し指で、病室の真ん中を指した。
病室を見たら、真っ先に目に入る場所のはずなのに、見えなかった。
いや、見えていても、私の脳はどうしてもその事実を無意識に避けていたみたい。
「……」
顔には白い布がかけられ、体は青い布で覆われていて。
桜太かどうかなんて分からない。
それでも、何となく目の前に横たわっているモノが桜太なんだと実感した。
「おうー…た?」
「さっき…、20分前まではまだ生きていたのよ?
なのに、もう…!」
「おばさんっ…」
そう言って、顔を隠しながら部屋を飛び出して行った桜太のお母さん。
こういう時に限って、私は気遣いの言葉も何も言えない。
「桜太…」
何かに引っ張られるようにして、私は桜太の側まで近付いた。
頭の中は永遠と白い闇が支配していて、何か悪い夢でも見ているかのような錯覚を覚える。
最初のコメントを投稿しよう!