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桜太の母親が出て行った今、私は1人になった。
…この部屋で、1人は耐えられない。
最初に感じた、涙を空気に溶かしたような重たい雰囲気が、さらに重たくなった気がする。
私は、桜太の顔にかかっている白い布を少し捲った。
同時に、今まで一粒さえも出てこなかった涙が、溢れだした。
拭っても、拭っても溢れ出す涙。
桜太の眠るベッドに、しみをつくっていく。
時を止められた桜太の顔は、突然の事故であったにも関わらず、満足そうな、満ちた表情をしていた。
「…桜太の馬鹿っ!! なんで、最期にあんなこと…!」
20分前に息を引き取ったと言っていたけれど、私の家に来たのも約20分くらい前。
何が、どうなったかなんて分からない。
あれは、私だけに見えた幻かもしれない。
もしくは、最期の最後に魂だけで逢いに来てくれたのかもしれない。
今思えは、大雨なのにどこも濡れてなく、綺麗なままだった。
「…っ、なんでっ!」
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