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『もし【悪魔】に見つかったらどうするの?』
脳の言語野へ声を送信してくる相棒に、【おしゃべ栗鼠】は亜麻色の尻尾を毛繕いしながらこう言葉を発する。
「案ずるな。俺の知恵とお前の飛翔があれば、何だって為せるし何処へだって往ける」
それを聞いた相棒の【空イルカ】は、真珠の如き瞳を煌めかせ、艶肌を翻して嬉しそうに空中を泳ぐ。
カガクという名の魔術によって在るべき進化の道程を歪められ、神の理に背く禁忌を種子に植え付けられた。
眠りから醒めたとき、檻の扉が崩れている事に気付く。そこに【悪魔】の姿はない。更なる自由を求めて【方舟】から外界へ旅立つ意志を宿した。
永い時の流れを漕ぎ続けて色褪せ苔生した【方舟】の巨大な船体から、二人は獅子奮迅と外の世界に飛び出す。
想像を絶する寒さがあった。
見渡す──穴だらけの大地が地平線の先まで広がり、廃墟と化して凍り付いた建造物の群集が長身を傾けて煩雑に生えている。
仰ぎ見る──連綿と轟く雷を孕んだ暗雲が太陽光を遮り、大気を皆殺しにする穢れた雪が幽玄と舞い躍って天空の躯幹を馳せる。
二人が見たのは黒の冬。
世界は、死んでいた。
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