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いつものように、自分で朝の支度をする。
『お母さん…?
玉子ご飯…良い?』
「…駄目!」
『分かった…』
そのまま体操服に着替えた。
《今日は楽しい遠足…》
ブカブカの体操服には、男の子の名前が、うっすらと見える。
きっと、これも母がどこからか調達して来た物。
黙って玄関に向かう。
まだ、夏子も父も寝てる。
小さくなり、足の指が痛い靴を履き、立ち上がった時…
「持って行き~!」
母の声に振り向くと、真四角の物体が、目の前に現れた。
『え…?何?』
「弁当…要らんの?」
両手を差し延べたら、弁当が私の両手の上に乗った。
ホカホカして、微かに甘い匂いがした。
『あ…ありがとう!』
私は玄関を飛び出した。
足の痛みなんか忘れて、両手に抱えたお弁当を、私は握りしめ走る。
もう、何回か通った学校までの道。
《お弁当…!お弁当…!》
道行く人に、見せびらかしたい気持ちを、グッと押さえた。
初めて手にしたお弁当が、嬉しくて…嬉しくて…。
ガラガラ…
『おはよう~!!!!!』
私は、自分のクラスの引き戸を開け、つい大きな声で挨拶をしてしまった。
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