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宮下は固唾を呑んで山本の次の言葉を待った。
「解剖室に横たえた時、一同は目を疑ったそうだ。笑って死んでいたんだ。普通はそんな事有り得ない。人間という生き物は、死ぬ時病気もそうだが苦痛に歪んで死ぬものだ。ましてやそれが手足が引きちぎられていたら尚更だ。相当な痛みがあったろう。一同は不安を感じながら解剖を始めた。」
山本はチラリと宮下を見た。聞くのを止めるなら今のうちだぞ、と目が言っていた。
「続けて下さい。」
宮下は意を決して言った。
「腹を割いてまず、胃を見た。そいつが他の被験者を食べたのなら、胃から出てくるだろうと。しかし、胃からは何も出なかった。」
山本は話を区切り宮下を再び見た。
「そう、何も出なかったんだ。二時間前に夕食を取ったにも関わらずだ。何が言いたいか分かるかね。」
「つまり、その被験者の消化速度は異常だったと言いたいのですか。」
「そうだ。現に死因は手足からの失血に依るものではなく、空腹からくる餓死だったそうだ。」
宮下はある疑問が生じた。
「では、その被験者が、もう一人を食べたとなぜ分かったんです。」
「いいところに目を付けたな。そうだ。胃に無かったのなら食べたのではないと。しかし、小腸を開いて謎が解けた。小腸に何がいたと思う。」
「いた?」
思わず聞き返してしまった。質問の仕方次第おかしいからだ。
「それが人喰病菌ですか。」
宮下は答えた。
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